このページでは、ミステリ作家の視点から、書籍、映画、ゲームなど色々な「表現」について評論したいと思います。
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見果てぬ夢

年に一度見るか見ないかという夢がある。
フロイトの言う定型夢ではない。
トイレを探してバタバタする夢とか、卒業試験が迫っているのになんの準備もしていなくてうろたえる夢とか、公衆の面前で裸(裸足とかズボンを穿き忘れたとか程度は色々)で困惑する夢とか、そういうんじゃなくて。
一つは異様に鮮明な夢で、これはもう自分でも夢と分かっている。空は明るい群青色、真夏(多分)の都市に、巨大な建造物がある。これが見るからにFFに登場する風景。特にFF10-2の「やどりぎの塔」なんて同じ夢を見たデザイナーの作品かと思っちまった(今もそう思っている)。
おっと、今回はそれとは違うパターン。
醒めたときに、具体的な内容はすっかり忘れてしまっている夢なのだ。しかも、醒めるのが悔しくて、なんとか手を伸ばして夢の世界に留まろうとするのだが、空しく現に戻ってしまう。
ところが、具体的にどんな夢か全く覚えていないのに、そのことがしばらく忘れられないくらいに懐かしい。フラッシュバック的に思い出すのは、ヨーロッパの片田舎のひと夏の出来事だったり、地沸き肉踊る冒険譚だったり。
本作は、まさのそんな想いを寄せられる冒険譚。
七つの銀河を駆ける盗賊、ビリイ・アレグロ・ラトロデクトス・ナルセと相棒の超能力黒蛇ダイジャの物語。
恥を偲んで書く。
表紙買いして、31年。昨日まで読んでいませんでした。
なんか、都筑道夫がスター・ウォーズブームに便乗して書いたように思えて(すみません)、ずっと敬遠していたのです。
それが、再び「表紙」読みして――
いやあ、なんで今まで読まなかったんだろう。まさにあの忘れてしまった素敵な夢。血沸き肉踊るスペースアクションドラマ。しかも、本格ミステリが仕込まれているのです。
それが、たった6話で完結なんて。
もっともっともっともっと読みたい。
たらればが許されるなら、この作品が「ラノベ」で発表されていたとしたら。
コミック化、アニメ化で、数千万部の大ベストセラーになって、ハリウッドで実写映画化まで発展したでしょう。
だから、わずか、6話完結のこの短編集は、珠玉の宝石なんです。
今更ですが、未読の方は、どうか入手してお読みください。
でないと、人生で、大損しまっせ。
『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』 都筑道夫 徳間書店 1981
※ 書影は集英社文庫版(1983)
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永劫に回帰しない

『酒のほそ道』でおなじみの、ラズウェル・細木の「酔庵」シリーズ最新作です。
過去、6巻、舞台は毎回居酒屋「酔庵」(例外的に、海の家とか花見会場)に集う酔客とマスター、バイトのミカちゃんというご安心の設定。薀蓄を語るわけでもなく、感動ドラマがあるわけでもないのに、なんだか自分が酔客の一人になった気分になれて、大変心地よい漫画なのですね。
わたしのPCの接続がトロイときとか、再起動をかけたとき、ほんの数分の暇つぶし用に、このシリーズはPCの直ぐ脇の置かれている。だから、一日に何度も読みなおしているのに読み飽きない。それが、新刊とあればもうこれは至上の喜びです。
と、期待に震えながらページを開いたのですが。
びっくりしたな、もう!
こんな展開になろうとは、誰が想像しただろうか。
ミカちゃんが気に入らない客を怒鳴り飛ばして追い出すとか、マスターが気に入らない客を怒鳴り飛ばして追い出すとか、これまでの「酔庵」では考えられないような展開。
しかも、200話の記念的回では、あの『風流つまみ道場』の錦之助と恵梨華、『酒のほそ道』の宗達、かすみ、海老沢、『魚心あれば酒心』の坂菜夫妻とか、豪華キャストが登場。
そして、なにより、そんなサプライズなんて吹っ飛ぶ、物凄い展開が待っているのです。
刺激が欲しいあなた、必読です。
凄いですよ、ホント!
『美味い話にゃ肴あり7』 ラズウェル・細木 (ぶんか社) 2012
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な、なんじゃこりゃあ!

20時間ほどで全クリいたしました。
いや、初めは面白くて、FF13の欲求不満総て解決したね、と思いきや。
うーん。今の日本の物作りの悪いところが全部出たという作品だな。
どうすればいい物が作れるかではなくて、どうすれば売れるものが作れるかだけを斟酌した結果だろう。
例えば、亀田兄弟。
本来なら、新チャンピオンになった時点で、『巨人の星』並みにスパルタの親父と二人三脚で栄冠を掴んだという事実が判明して、それが話題になって、新しい番組が企画されて――となるはずなのに。
まず、『巨人の星』のパチモン番組作り、それに合わせてチャンピオンにさせようとする。そのためには手段を選ばず、招聘禁止ボクサーを噛ませ犬にして――といった指摘は散々されてきた。
FF10という傑作ゲームがあった。ストーリーもキャラクターも音楽も、奇跡的な完成度で、クリア後も感動が持続した。しかしながら、ある意味BADENDING、このまま終わるなんて酷い! と思ったのはおれだけではなかった。そうした意見がメーカーに数多く寄せられ、結果、FF11の次は12ではなく10-2が発売されたのだ。
10とは全く違う能天気な内容だったけど、最後はHAPPYENDINGで、悲しい涙を流したファンたちは、ほっと安堵したものだった。
それを、狙ったんだろう。
シンプルでいいゲームかと思ったが、終えてみれば明らかな手抜きと分かる。なんせ、あっという間に終了するという薄っぺらなストーリー。ダンジョンとモンスターは使いまわし。分岐点での選択で異なったENDINGと謳いながら、1分程度のどうでもいいムービーを見せられるだけ。
結局、ENDINGはあざいといBADENDINGで、さらに“to be contenued”ときたら、これは見え見えのFF-10の泥鰌狙いだろって。
続きをやらなければいてもたってもいられないゲームを作れよな。
BADENDINGにしておけば、皆続きをやりたがるだろうって。
こんな酷い商売ってあり? ファンをなめるのもいい加減にしろよ。
13-3を出すつもりなんだろうな。ラストチャンスだと思うから、絶対、手抜きはするなよ、スクエアエニックス。
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全国選手権特集
12月18日に発売されました。
表彰式での小生の写真も載っております。

ご希望の方は、
〒171-0014 東京都豊島区池袋2-70-9 小林興産ビル1Fまで。
kaneshiro@kendoukai.org
300円(送料別)です。
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喪失感

市川森一氏が亡くなられた。つい先日石堂淑朗氏の訃報を聞いたばかりだった。ウルトラマンシリーズに関わった脚本家がお二人相次いで鬼籍に入ったことになる以下敬称は略します。
唐突だが市川森一は「喪失」を描いた作家だったと思う。われわれは時間をはじめとして、いろんな物を失いながら生きている。当然得るものもあるのだが、最期には総てを失って死ぬ運命にある。そうした人間という存在の根源的な哀しさを描き続けたのが市川森一ではなかったか。
『港町純情シネマ』がそうだった。『淋しいのはお前だけじゃない』しかり、『異人たちとの夏』しかり。そうした市川作品の中で最も「喪失感」が色濃く描かれていたのが、『泣いてたまるか』シリーズの一本「幽霊は不倫する」(1986年)だった(しかし、このタイトルはなんとかならなかったのかしら)。
西田敏行は美容院の経営者。萬田久子はその妻。ある日、探偵事務所の女性調査員・富田靖子から「奥さんの不倫現場の写真を買わないか」と持ちかけられる。そして、「奥さんは今日もこの男と会っていましたよ」という富田の話を聞くや、西田は写真を買い取った上で、さらなる不倫調査を依頼するのだった。
不倫というテーマを扱いながら、西田のキャラはコキュとはいえ、どこか喜劇的。萬田久子はこの当時、輝くばかりに美しく、浮気されても仕方ないよねという雰囲気が漂いまくりだった。
このドラマ、DVD化もされていないし、再放送の可能性も低い。だからネタばらししちゃうけど。
ネタばらし↓
萬田久子は一年前に急死していた。富田靖子はそんなことも知らずに、いい飯の種を見つけたと、西田のところに写真を持ち込んだのだ。「奥さんは今日もこの男と会っていましたよ」という言葉から事実を察知した西田は、敢えて調査を依頼した。そして、毎日持ち込まれる偽の調査報告の中に生きている妻の姿を見ていたのだ。
ネタばらし↑
なんて哀しい話なんだろう。「喪失」というものをここまで描ききった作品は、泡坂妻夫の『雪なだれ』くらいだろう。
そして、われわれは市川森一という素晴らしい才能を永遠に失ったのだ。
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三つの大恥

その1
先日の鮎川哲也賞贈呈式のパーティで、複数の方から、「増田俊也読みましたか」と訊かれて、なんのことか分からず「さあ?」と答えておりました。そうした質問をされた方々が、「高専柔道」とか「七帝大」なんて話しているのを聞いて、「あ、ひょっとしたら『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』のことですか」なんてことを訊き返しながら、「へえ、皆さん『ゴング格闘技』なんか読んでいるんだなあ」と思ったのが、大恥。
その2
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』をゴング格闘技の七月号で読んだ時に、連載の最終回と気が付かずに、「随分、散漫な文章だなあ」などという感想を抱いたという大恥。
その3
伯方雪日さんのツイートを見て、「あれ? 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』というのはひょっとして単行本になっているのかいな」と遅まきながら気付いて、早速昨日池袋ジュンク堂で購入し、某呑屋で検見していたら、なんと我が師、拳道会総師・中村日出夫の名が出てくるではないか。そんなことを、今の今まで知らなかった(質問された方には、この件のことを話したかった方もいたはず)という大恥。
誰もが知っている木村政彦と力道山の死闘。もはや定説にもなっている八百長を力道山が途中で裏切った(あるいは恐怖心からガチを仕掛けた)という話を証明し、木村政彦の名誉を回復する。著者の増田俊也はそんな想いから、検証を始める。
大量の資料にあたり、生き残った知人、当事者、あるいは格闘技の専門家に取材を試み、真実を追求していく。そうして、なんと探り当てた事実は――
労作である。
安易に肩入れせず、深読みせず、饒舌であった著者は次第に寡黙になり、そして、ついには言葉を失っていく。
事実は事実でしかない。それはまた凄まじい現実である。おそらく木村政彦の評伝で、これ以上のものはこの先書かれないだろう。その一点で本書には価値がある。
しかし、男たちの時代は、本当に終わっちまったんだなあ。
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』増田俊也 新潮社 2011
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酩酊レポート

諸般の事情により、一日遅れのアップです。
さて、本年もいってまいりました。鮎川哲也賞贈呈式であります。本年は「ミステリーズ! 新人賞」は該当作なし。昨年度は、鮎川賞2作、ミステリーズ!新人賞も本賞が1作、佳作が2作と大賑わいだったのに比べて、まことにシンプルな贈呈式でありました。
今年のパーティではお姿はお見かけしながら、声をかけられなかった方も多く、ご無礼ながらお名前だけ挙げさせて頂きます(敬称略)。
有栖川有栖、法月綸太郎、三津田信三、米澤穂信、芦辺拓、倉知淳、蘇部健一、獅子宮敏彦、鯨統一郎、まだいらっしゃるかも知れませんが、失礼致しました。
まず、会場入口で乾くるみさんとお会いしました。静岡駅周辺はすっかり様変わりしてしまったとか。もはや『イニシエーション・ラブ』の面影も全くないのでしょう。
そうこうするうちに高井忍さんから「お久しぶりです」と声をかけられました。本当に久しぶりで贈呈パーティの出席も2年ぶりとか。ちょっとお話しして、急にあることを思いつき、山口芳宏さん、太田忠司さんに声をかけさせていただいた。いや、本格ミステリ作家クラブにご入会いただこうと思って。
魔夜峰央ご夫妻にあいさつ。『名探偵プリコロ』が創元社から出ておめでとうございます。しかし、その労をとった愛川晶さんのお姿が見えない。愛川さんは福島在住で、今回の地震の被害をモロに喰らったからなあ。と思っていたら、お姿が見えた。なんと、そうしたハンデを乗り越えて、わざわざやっていらっしゃったのは、北森鴻さんを偲ぶ会の発起人の一人として、鮎川賞受賞者に花束を渡すためだとか。偲ぶ会の後、ご遺族から発起人の皆様へと渡された慰労金を着服せずに(すみません)、花束代として、今後五年間、そうしたセレモニーを行うのだとか。頭が下がります。
鳥飼日宇さんとはちょいと話し込んだ。鳥飼さんは贈呈式出席のため、数日前奄美大島から上京されたのだが、飛行機の中で知人の訃報を聞き、とんぼ返りで奄美に戻り、再上京されたのだとか。倉阪鬼一郎さんとお話中、米澤穂信さんの乾杯のご発声。グラスが置かれたテーブルのクロスがなんと唐草模様、乾杯後に「この会場は唐草模様で一杯だ!」と発言したら、周囲にいた柄刀一さん、西上心太さん、千街晶之さん、など10人近い人間が「おおおおお!」と歓声を上げた。
その倉阪鬼一郎さんにコラボレーションのお願いをしたら快諾いただけて、早速某編集者に話したら「完成したら見せて下さい」とのお答え。そりゃそうだな。倉阪さんあちこち引っ張り回してすみませんでした。
書きたい小説があるのに編集者が――と愚痴ったら、「そんなもの書いちゃえばいいんですよ」と助言してくださったのは青井夏海さん。ありがとうございます。
道尾秀介さんと話していたら、なぜか「コールスローには醤油をかける」という話になって意気投合。調子にのって「わたしはトンカツも醤油です」と言ったら「トンカツはソースでしょう」と言い放たれて去っていかれた。哀しかった。
受賞者の山田彩人さんにご挨拶。講評した島田荘司さんが大絶賛だったのを「リップサービスでは」と謙遜されるので、島田さんはそんなことはしないと偉そうに助言。もっとも、帰りにもらった「ミステリーズ!」の講評を読んだら、他の三人の選考委員(笠井潔さん、北村薫さん、山田正紀さん)は結構厳しいことも書いていました。
中締めが済んで、さて引き上げるかとロビーに出たら、ソファで休まれている本格ミステリ作家クラブ会長の辻真先さんを見つけたのでご挨拶。「わたしも会員なんです」。以前からお話ししたかったので、ラッキーでした。
本年も暴言妄言などございましたら、酩酊ゆえとお許しください。
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バカミスの極北

さて。
書店で手に取り、冒頭の10ページばかりをパラパラ。
おお、やっているなとほくそ笑む。
なんせ、『四神金赤館銀青館不可能殺人』がアレで『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』がアレで『新世界崩壊』がアレであったのだから、本作の仕込みにも薄々想像はつく。というわけで、さっそく贖って読み始めたのだが。
当然ながら、L字構造を持つ唐草模様の黄緑館と藍紫館が、まっとうな建造物ではないという前提で読み進める。
しかし、なんだなあ。再読して分ったが、実は冒頭でいきなりネタばらししてるんだよなあ。しかも、「首の無い男」だものなあ。ここでピンとこなくちゃいけなかったんだ。
そして、「この世界の構造の〈外〉から現れて殺戮を繰り広げる怪物」と言ったら、もうアレしか考えられないが、このネタ、ミステリやマンガでも繰り返し使われながら、ことごとく失敗(と、おれは思っている)しているネタなんだよな。でも、講談社ノベルスだから平気でやるだろう。
館の新築お披露目パーティなのに招待客はたったの4人。しかも、黄緑館にはせこい宿泊設備しかなく、藍紫館にいたっては設備そのものがないという有様。途中で見取り図が示される黄緑館は妙に空きスペースの広いおかしな構造だが、ならば藍紫館は宿泊設備がないとなると空きしかないじゃんと、ますます分からなくなってくる。
しかも、雪に閉じ込められた山荘で、お約束の連続殺人が発生して、4人が次々と……。
194頁の本作、111頁で早くもネタばらしされ、そうかいそうかいそういう話だったのかと、ニヤリとさせられるのだが、その後「言葉遊び」が延々と続く。張り巡らされた伏線の数々を律儀に回収していくのだが、まあ、なんでこんな滅多矢鱈に仕掛けるのか。そう思えてきて、いささかうんざりしたところで、『エピローグ 最後の謎解き』となる。
そこで解き明かされる最後の謎とは――
はい。絶叫しました。これは凄い。凄過ぎる。
なんで「唐草」模様だったのか。
これだけ、堂々と登場していたのに全然気が付きませんでした。
いつもの仕掛けにいつもの仕込みと見せながら――
『笑う後家』というタイトルがしばしば出てきたけど、これはもう『笑う後家』を超えているなぁ…。
究極のバカミスが読みたい方にお薦めです。→読者を選びます。
『五色沼黄緑館藍紫館多重殺人』 倉阪鬼一郎 講談社ノベルス 2011
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刻まれたい

あのグレッチェン・ローウェル“ビューティ・キラー”シリーズの三作目。当初三作で完結と聞いていたが、嬉しいことに未だ続くようだ。
ミステリでありながら至上の愛を語り、愛を語りながら、人体の滅多斬を描くという、まことに凄いお話であります。是非、一作目『獲物』、二作目『犠牲』をお読みの上、本作を紐解いていただきたい。
主人公(の一人)は、アーチー・シェリダンというポートランド市警の刑事。
シリアルキラー事件を捜索中に、彼のチームはグレッチェン・ローウェルなる美貌の精神分析医から協力の申し出を受ける。犯人逮捕には、自分のスキルが絶対に役立つはずだ。ところが、このグレッチェン・ローウェルこそが連続殺人鬼“ビューティ・キラー”だったのだ。アーチーは誘拐され、凄まじい拷問を受けた後に殺されてしまう(!)。
ところが如何なる心境の変化か(というか、これが謎のすべてなのだが)、グレッチェンはアーチーに蘇生術を施して救命し、数十人の被害者の遺体の所在地を教えるということを条件(司法取引)に自首してきたのだ。
グレッチェンは逮捕され、死刑は免れたが終身刑となる。一方、アーチーは精神を病み、刑事の業務は休職状態。離婚し、薬漬けになりながら、毎週グレッチェンのもとを訪れて、遺体の所在を訊き出していく……。なんか、レクター博士とクラリス捜査官の関係みたいだが、そんな生易しい話ではない。二人の間には「至上の愛」が形成されていたのだ。
という事実は、実は総て冒頭で明かされるので、ネタバラシではありません。さあ、これから二人の関係はどうなるのか。設定も奇抜だが展開される物語もまた常軌を逸している。
もう一人の主人公、スーザン・ワードはセックス好きの新聞記者、新たな連続殺人事件発生に、ようやくカムバックするアーチーの密着取材を開始するのだが。 新たな連続殺人が、実はスーザンともグレッチェンとも複雑に関係しているところが、ミステリとして良く出来ているのだが、なんせ、アーチーとグレッチェンの関係が尋常でないために、どうでもいいような気分になってくるのも事実。 第二作『犠牲』では二人の関係はいよいよ濃密になり、もはや二人の前途には“破滅”以外になにもないような気がしてくる。果たして、グレッチェン・ローウェルは逃亡、その行方は杳として知れずというところで第二作は終わっている。さて、この第三作で物語はどう転がっていくのだろうか。
冒頭、いきなり、公衆トイレで血まみれの肉片と数対の眼球が発見される。壁にはマーカーでグレッチェン・ローウェル“ビューティ・キラー”のハートのサインが描がれていて……という当たりで、早くも、おっと今回はこうした展開かと、勘のいい読者には先が読めてしまうのではないか。読めてしまうが、そうした展開なら、さぞや面白い話になるだろうと、いやが上にも期待してしまうのも事実。そして、期待に違わず、ハラハラ、ドキドキのストーリが突っ走る。
いや、これ以上は書けないけど。
作中に“吊りマニア”が登場するのだが、毎回酷い目に遭う、アーチー刑事は今回も全裸にされ背中や脚にフックを突き刺されて吊り上げられてしまう。仰向けを「コーマポジション」、俯せを「スーパーマン・ポジション」というのだそうな。
実は知人の女性にこの吊りマニアがいて(二十代後半の美女です)、会話中、じわじわとそちらに話題をシフトしていくのね。どうやら、おれをスーパーマンにしたいらしい。本人は巨大な安全ピンを背中に3対刺して、そこに黒リボンを結んでクロアゲハを演じたりしてくれるのだが(むろん全裸ね)、気の弱いおれは正視出来ない。
あの女にこの本読ませたら、おれの意思表明と勘違いして、いそいそと吊りの準備を始めそうだな。
閑話休題。
今回は髪を紫に染めて張り切るスーザン・ワードも大活躍。残虐描写がお嫌いでなかったら(お好きなら)、絶対にお勧めですよ。
『ビューティ・キラー3 悪心』
チェルシー・ケイン 高橋恭美子 訳 ヴィレッジブックス 2011
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酩酊レポート
いって参りやした。
飯田橋の出版クラブ会館。
17:30からのパーティです。
受付で会費を払うと、早速、色紙にサインです。
これもファンにプレゼントするんでしょうかね。
因みに、わたくし図々しく真ん中にサインしていますが、そこしかスペースがなかったのです。
入口で早々に山口芳宏さんと久闊を叙す。
鳥飼否宇さんと久闊を叙す。話題は鳥や虫の話になる。鳥飼さんによれば、カルガモは既に、カラス、スズメと同様に街場の人間の生活圏にとけ込んでいるとか。

なるほど(練馬区白子川)。
倉知淳さん。「駄目ですよ。三ヶ月たたないうちに、書評を書いちゃあ」。ははあ、肝に銘じます。
霞流一さんと久闊を叙していたら、司会者遅刻のため暫し待ての指示。ほほう、言訳が愉しみですなと言っているそばから、杉江松恋さん登場、言訳もなくいきなり進行。大賞の選考に関して、戸川安宣さんからコメント。
まことにあっさりとした、しかし、的確なコメントの後、授賞式になだれ込む。

辻真先会長から、トロフィーを受けた『隻眼の少女』の麻耶雄嵩さんと『エラリー・クィーン論』の飯城勇三さん。
麻耶さんのウィットあふれる挨拶と飯城さんの真摯なあいさつ。これまた両者簡潔で気持ちがいい。
倉知さんの乾杯の挨拶。「本ミス10年、ケロロ軍曹も未だ始まっていなかった。一昔であります(ケロロ軍曹終わったけど)」。
霞さんと倉阪鬼一郎さんのミーコ姫をなでなで。蛇と猫の共通点をひとくさり。これ、ちょっとしたホラーネタね。
獅子宮敏彦さんと久闊を叙す(こればかりだが、普段作家の皆様とはSNSのお付き合いなので仕方がない)。「ミステリーズに新作の書評が載ってましたよ」「え? 誰が書いたんでしょう」「ええと、ええと……」。分からんので、創元社編集のF嬢に訊く(中村有希さんだった)。
日下三蔵さんと駕籠真太郎さんの『アナモルフォシスの冥獣』について。やはり、予備選では一押しだったんだとか。「漫画の壁は、いきなり越えるのは無理でしょう」。しかし、未読の人は是非読んで、ショックを受けて欲しいとのこと。
大倉崇裕さんと久闊を叙す。大倉さんは今野塾の黒帯を允許されたとか。黒帯同士話がはずむ(はいはい、おやかってますよ、はい)。ガマク、ムチミ、チンクチなどという言葉がぽんぽん。ついには道場に来たヤクザ二人を半殺しにしたことまで。酔った勢いですよ(話したのがね)。
芦辺拓さんと「美女と探偵~日本ミステリ映画の世界~」について。横溝映画の最高傑作は『三本指の男』で意見が一致。わが意を得たりの思い。
ええと、まだまだいろんな方と話したと思うけど、酔ってしまって覚えておりません(毎回こればかり)。
暴言などありましたら、おわびいたします。
年々華美になっていく『鮎川哲也賞』のパーティとは反対に、作家と編集者のサロン的な雰囲気が素晴らしいパーティでございました。